エースコンバット04-シャッタードスカイ- ACECOMBAT04 -shuttered skyes- 評

エースコンバット04-シャッタードスカイ- ACECOMBAT04 -shuttered skyes-

発売日2001年9月13日(発売中)
定価:\6,800(税抜き)
発売元:株式会社ナムコ
オフィシャルサイト:http://www.acecombat04.com/


 2001年9月に発売されたナムコのゲーム『ACECOMBAT04-shuttered skyes-(以下『AC04』と記す)』は片渕須直監督がサイドストーリーを担当している。『AC04』はF15CやSu35等の現行機、設計段階の機体、はたまた架空の戦闘機をプレイヤーがひとりのパイロットとなり操りながら様々なミッションをクリアしていくフライトシューティングゲーム(フライトシミュレーションより遥かに操作が簡単なので差別化の意味でこう呼ばれる)である。舞台はこの『AC』シリーズの為に準備された架空の大陸「ユージア」。ユージア大陸には大国エルジアとその他多くの小国とが、「武装平和」と呼ばれる一触即発の勢力均衡を長年保っていたが、ある事件(事故)に因り均衡が崩壊、エルジア軍は中立国サンサルバシオンへの侵攻を開始する。我が分身のパイロットはエルジアに占拠された各国を開放すべく作戦に参加する。これはゲームであるからにしてプレイヤーを阻む敵機は障害として見なし、爽快感溢れる空中戦を楽しむだけになってしまいがちである。通常なら物語もプレイヤー側が勝ち行くまでをイケイケで描くのが常套手段であろう。

 しかし『AC04』は違う。ミッションの合間に挿入されたサイドストーリーは戦渦により孤児となった少年の視点で描かれる。ゲーム特有の主観一点張りではなく、プレイヤーを中心とする独立国家連合軍の視線があり、大陸深部の都市に取り残され占領軍相手にハモニカを吹き生活をする少年の視線がある。そしてそれら視線の交わる空には広々とした爽快感に何とも言えない悲壮感が雑じる。少年は両親を死の追いやった「黄色の13」と呼ばれる敵国エースパイロットに復讐を誓うのだが、出合った「黄色の13」との交流の中、躊躇いも感じるようになる。脚本も担当した片渕監督は今までゲームではあまり描かれなかった戦争状況下での人々の生活とドラマをドライな語りで演出したのだ。

 サイドストーリーの映像は片渕監督の所属するスタジオ4℃が担当した。全編静止画で、まるでクリス・マルケルが監督した『ラ・ジュテ』(原題"La Jetee"1962年/フランス)の様だ。表現も凝っており、16mmフィルムで撮影したスチール写真を映写したかのように画面が上下左右に微かに揺れ、明暗も変化する。物語は少年のナレーションで語られ、短いセンテンスで区切られた簡潔な言葉運びは我々の想像力を刺激してくる。私の予想ではあるが、これはアゴタ・クリストフの小説『悪童日記』(原題"LE GRAND CAHIER"1986年/フランス)の文体にヒントを得ているのではなかろうか。クリストフは小説の中でこう書いている。「感情を定義する言葉は非常に漠然としている。その種の言葉の使用を避け、事象や人間や自分自身の描写、つまり事実の忠実な描写だけにとどめたほうがよい。(詳しくは『悪童日記』の「ぼくらの学習」を参照)」。『AC04』の登場する少年の語りも良く似ている。冒頭「黄色の13」に撃墜された戦闘機が両親の残る我が家に墜落するが、その事実のみを語り、哀しみの心情は表に出さない。饒舌ゆえ世界観を崩してしまうゲーム作品の多い中にあって『AC04』のサイドストーリーは優れたファンタジー文学の様な味わいが残る稀な作品に仕上っている。

 補足すると『AC04』本編は現実では無いであろう無茶苦茶なミッションも存在する(普通、弾道弾を戦闘機で撃ち落すだろうか?)。賛否の別れるところだが、世界観も含め近未来SFだと割切った方が楽しめだろう。ミッション中に交される無線も雰囲気に一役買っている。詳しくは書かないがちょっとした英雄誕生の物語にもなっているのだ。PlayStation2をお持ちなら是非一度、『AC04』でゲームの爽快感と片渕監督のサイドストーリーを楽しんで頂きたい。



初出:『アリーテ姫』下高井戸シネマ上映2002年 8/10-16